島根県西部の石見地方は、全国屈指といわれる神楽どころ。社中(神楽団体)が200近くあり、一年を通じて披露されている。石見神楽プロジェクトの日高均会長は「舞子が跳ね回ったり、花火を手にして走ったりと、娯楽性の強い演出が特徴」と話す。会場には子ども連れも多く、エンターテインメントとして老若男女から愛されていることが分かる。
石見神楽のもう一つの特徴が「八調子」と呼ばれる速いテンポ。ドンチッチという囃子のリズムが物語を速やかに展開する。「『六調子』という緩やかな神楽もありますが、明治以降は石州人の気質に合った『八調子』が主流となりました」と日高さん。躍動感あふれる舞台は、見ている側の心まで舞わせてくれる。
囃子(イメージ)
「八調子」のリズミカルな囃子が、舞台をさらに盛り立てる。
「黒塚」のひとコマ(イメージ)
方言まじりのユーモラスな掛け合いが面白い。
住所:島根県浜田市相生町1571
電話:0855-29-5647(石見観光振興協議会)
時間:5・6・8・9・12〜2月の毎週土曜19:30〜21:00
休み:8月1日、1月2日
費用:500円
交通:浜田駅から車で約7分
URL:島根県西部公式観光のサイトへ遷移します。
※その他、8カ所でも定期公演を開催。詳しい日程はお問い合わせください。
岡崎神楽社中代表の三賀森康男さん
取材当日に神楽を披露してくれたのは、浜田市三隅町に拠点を置く「岡崎神楽社中」。約300年前の江戸時代に創立されたと伝わる、石見地方でも屈指の長い歴史を有する社中(神楽団体)です。85歳にして現役で舞台に立つ、代表の三賀森康男さんにお話を伺いました。
「江戸時代、三隅町には関所があり、旅人が多く立ち寄ったそうです。その旅人たちに向けて関所の近くで舞ったのが、私たちの社中の起源だと伝えられています。現在は約20名の社中員によって、郷土の伝統芸能を大切に受け継ぎながら、精力的に活動しています」と三賀森さん。
花火を使ったり、笑いを交えたりと、さまざまな趣向を凝らした舞台は、石見神楽通からも厚い支持を集めているそうです。「後進の指導に努めながら、私も舞子として舞台に出ています。お恥ずかしい限りですが…」と謙遜されますが、舞子歴70年余の三賀森さんの舞は、まさに“いぶし銀”。とても味わい深く、独特の間を感じさせるものでした。機会があれば、ぜひ鑑賞してみてください。
定期公演を除くと、石見神楽が舞われるのは基本的に春〜秋にかけて。もっとも盛んになるのは秋祭りの時期で、ほぼ毎夜どこかで神楽囃子が聞こえているそうです。石見神楽プロジェクトの日高均会長によると「夏のえびす祭、秋の例祭の前後になると、石見地方中の神社で神楽が行われます。最近は少なくなりましたが、『夜明け舞』といって21時から翌朝6時くらいまでぶっ通しで舞う舞台もあるんですよ」とのこと。夜明け舞では、お重をつつき酒盛りしながら鑑賞するお客さんなどもいて、お祭り騒ぎのようになるといいます。想像するだけで、なんとも楽しそうな一夜だと思いませんか?
石見神楽プロジェクト日高均会長
鯛の天ぷら丼
呑み処 神楽
住 所:〒697-0022
島根県浜田市浅井町56-22
電 話:0855-23-1032
営業時間:16:30〜22:30
休 日:毎月15日
交 通:浜田駅から徒歩すぐ
豊かな自然に恵まれた石見地方は、新鮮な山海の幸の宝庫。迫力満点の神楽を鑑賞した後は、ご当地食材を使った美食を堪能してみてはいかがでしょうか。どんな料理を食べようか悩んだら、石見ツーリズムネットと島根県観光連盟が主催するキャンペーン「石見の神楽めし」の協賛店をチェックしてみてください。
「石見の神楽めし」には、天然の良港・浜田港などで捕れた魚介類を味わえる「えびす丼」、のびやかな環境で育てられた牛・豚を使った「オロチ丼」、石見の特産品や郷土料理をアレンジした「大黒めし」の3種のカテゴリがあります。左の写真は、えびす丼カテゴリに含まれる「鯛の天ぷら丼(860円)」。浜田港で水揚げされた鯛をカリッと天ぷらにし、丼いっぱいに豪快に盛り付けた、居酒屋「呑み処 神楽」の人気メニューです。同店の廣中豊さんは、島根県益田市無形文化財指定を受けた由緒ある神楽社中「種神楽保存会」の代表も務める、生粋の神楽人。神楽話に花を咲かせながら味わえば、さらに美味しいひとときを過ごせるはずです。