【2022年9月6日】
旅の楽しみは人それぞれですが、ここ数年の社会情勢の影響もあり、旅行への価値観も少しずつ変わりつつあるようです。それでも本音は「やっぱり旅に出たい!」「旅先で感動を味わいたい!」。そんな今だからこそ求められている旅とは一体どんな旅なのでしょうか?旅のプロであるクラブツーリズム(株)関西テーマ旅行センターの皆さんにお聞きしました。



秋〜冬のおすすめは、
食の山陰、海の山陽
第2回は、中国エリア(鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県)への旅についてお話をお聞きしました。
このエリアについて藤田さんは、「山陰と山陽とでは風土がだいぶ異なります」と指摘。今回は秋~冬の旅を前提にお話しいただいたのですが、「冬場なら山陰はやっぱり食ですよね。雪が降ることも多いので、外に観光に行くよりも食をめぐるツアーになってきます」。栗田さんも、「そうですね、カニがありますから」と同意。ちなみに冬の味覚の王者・ズワイガニの呼び名は山陰地方では松葉ガニが一般的です。近年は鳥取の『五輝星』などブランドガニも登場しています。
「逆に山陽は雪などの心配も少なく、秋~冬でも比較的温暖。瀬戸内海に面していますので島めぐりなどが風土に合う旅でしょうか」と藤田さん。また、山陽地方は京阪神からのアクセスが良いことも特長だと言います。「岡山などはとても近いので思い立ったらすぐ気軽に旅行できます。それより西であれば宿泊してじっくり旅行したいですね」。
中国山地で隔てられた山陰と山陽は、気候も風土もかなり異なり、ツアーを組む時も分けて組まれることが多いそうです。

神話の国・出雲!
歴史ロマン感じる神事や遺跡
田岡さんは、山陰には古代からの神秘的な伝統や文化が残されていると言います。「たとえば11月に出雲(島根県)で行われる神迎祭。全国の八百万の神々がその時は出雲に集まりますよ、という神事です」。旧暦10月は、全国的には神様が留守にするため『神無月』ですが、神々が集まってくる出雲では『神在月』とも呼ばれています。
「今年は新型コロナの影響で造成できなかったのですが、毎年ツアーはないのですが、神迎祭の時に出雲に滞在して祭を体験するコースなども作っています。神社史研究会の講師の先生から作法を学んだり、地元に伝えられる話を聞いたり、神楽奉納や正式参拝などを通じ、深掘りしていきましょう、と」。山陰は、やはり神話にまつわるテーマが多いそうです。
「歴史テーマですと、山陰には古墳もたくさんあります。(島根県)とか」と藤田さん。大量の銅剣が発掘された荒神谷は、古代史ファンなら一度は訪れたい場所。隣の鳥取県にも弥生時代の大集落・妻木晩田(むきばんだ)遺跡などがあり、山陰は古代史スポットの宝庫だそうです。
「文化でいえばたたら文化とか、そういったところも深掘りすると非常に面白いテーマかなと思います」。たたら製鉄はヤマタノオロチ伝説ともつながるなど、山陰のカギを握るテーマにもなりそうです。


岡山の古代王国とノスタルジックな町
「古代出雲と同じように、独自の文化圏を持っていたのが吉備王国(岡山県)ですね」と 藤田さん。吉備には全国4位のサイズを誇る造山古墳など、古代吉備の勢力を物語るスケールの大きな遺跡が点在しています。「11月~12月には現地解説付きで、吉備王国をテーマにしたツアーを考えています。造山古墳などは、写真で見るのと実際に行って見るとでは全然違うんですよね」。造山古墳は墳丘の上を歩くことも可能。体感するとやはり感動が違うそうです。また、古代の山城・鬼ノ城も圧巻のスケールを誇り、地元では桃太郎伝説と関連付けられて伝承されています。
「岡山県ですと、吹屋は最近注目されている場所ですね。もうかなり有名になってしまったかもしれませんが」と藤田さん。日本遺産にも選ばれたベンガラ色の町並みは、“ジャパンレッド発祥の地”とされ、ノスタルジックな雰囲気。旧吹屋小学校の木造校舎は明治時代の校舎で、「最近、修復工事が完了して、今はもう見学できるようになっています」と栗田さん。吹屋は個人で行くには少し不便なため、ツアー参加のメリットがある場所だそうです。

海軍、海賊、古戦場…
海をめぐる旅の宝庫!
山陽地方は、やはり島めぐりなど海と関するテーマのツアーが多いそうです。
「戦後77年の今年は、呉(広島県)で旧海軍の歴史を訪ねるツアーを企画しています」と田岡さん。個人では交渉が難しい旧呉海軍工廠などの語り部や講師と共にじっくり見学し、「あとは昔の海軍の方が通い詰めていた料亭での食事をしたり、語り部の案内を聞きながら、艦船をも見学します」。定番の大和ミュージアムだけ見学して帰るのではなく、呉の町に一泊二日 滞在して見聞することで、学びが深まるのだと言います。
「瀬戸内海の歴史でいえば、村上水軍(村上海賊)などもよくテーマになりますね」と藤田さん。広島県から愛媛県まで連なる島々になりますが、実際に現地で船に乗ることで、この海域の潮の流れがどれくらい速いのかなど、身をもって知ることができます。
また、今年は源平合戦の古戦場・壇ノ浦(山口県)をクルーズ船で海から見るツアーを組んでいるのだとか。田岡さんは、「バスの中から見るのではなく、船から見ると昔の人たちはこんなふうに見えていたんだろうな、などと気づきます」。
そして下関には外せない食文化も。「冬はやっぱりフグが名物なので、フグをメインにしたツアーも考えています。個人ではなかなか行きにくい料亭・春帆楼というお店でフルコースを食べるツアーです」と藤田さん。春帆楼は日清戦争の講和会議の舞台になった歴史的な場所でもあります。

生活感が味わえるのも島めぐりの魅力
瀬戸内の島を旅すると、そこに住む人々の暮らしが感じられる、と藤田さん。「先日、田岡と塩飽(しわく)諸島の島を視察したのですが、定期航路の船に郵便配達の方が一緒に乗ってたりする訳です。船に乗って買い物に行くおばあちゃんとか、通学する学生とか、地元の生活感が肌でわかって、こういうのも旅の魅力だと思うんですよね」。
また、港が新幹線や山陽本線の駅に近い場所も多く、アクセスしやすいのも魅力のひとつ。「日本海や太平洋とは違って、冬でも波がおだやかですし」と藤田さん。「それでも定期便だけだと不便なこともありますので、チャーター船を貸し切って島をめぐるツアーをやったりもしています。そこはツアーの強みですね」。
一方、山陰側にも取り上げる機会の多い島があるといいます。「隠岐(島根県)は本当に離島という感じで、結構ツアーもやってますね」と藤田さん。ツアーでは時間短縮のため飛行機を使うことも多いそうですが、「歴史を感じたいならば、たとえば後鳥羽上皇が流されたのと同じ距離を、船で渡った方がストーリー性があると思います」。
山陰、山陽で風土がガラリと変わる中国地方。古代の神秘やおだなかな海など、都会の喧噪を忘れさせてくれる旅先が多いエリアです。

