【2022年11月8日】

砂鉄から鉄を造りだした「たたら」。たたら製鉄は高炉による近代製鉄に主役は譲ったものの、今もなお島根県雲南市から奥出雲町に残る史跡を訪ね歩くことができます。玉鋼を使った日本刀鍛錬の実演や博物館など、おすすめスポットをご紹介します。
提供:
All About
※掲載情報は2020年2月1日にAll Aboutに掲載されたものをリメイクしたものです。
島根県の雲南市から奥出雲町に残る
「たたら」の史跡を訪ねてみよう

遥か昔から、日本独自の技術として砂鉄から鉄を造りだした「たたら」。映画『もののけ姫』の中にも「たたら」のシーンが登場していましたので、ご存じの方もいらっしゃるでしょう。
明治以降の産業革命を機に製鉄の方法は高炉による近代製鉄に主役を譲りましたが、「たたら」による製鉄が盛んに行われていた島根県東部の雲南市から奥出雲町には現代でも「たたら」の遺構が史跡という形で残ります。産業遺産が注目されるようになった昨今、文化庁から日本遺産に認定されるなど改めて評価が高まり、多数の方が訪れるようになった「たたら」による製鉄の史跡を訪ね歩いてみましょう。ここに来ると鉄を加工した道具造りの体験や、普段の会話で良く耳にするあの言葉の語源までわかりますよ。(取材協力:島根県
観光振興課/2014年)

砂鉄から鉄を造る日本独自の技術
「たたら製鉄」

「たたら」は、粘土で造った炉の中に砂鉄と木炭を入れて、風を送り込みながら炉の中を高温で燃やし続けることにより、鉄を造る技術です。

飛鳥時代から奈良時代にかけて編纂された「出雲国風土記」にも記載がある千数百年以上前からの歴史を誇る日本独自の技術で、砂鉄が採れる中国地方の山間の多くで行われていました。
一時期は日本で造る鉄の80%以上を占めたこともあった「たたら」ですが、明治時代の産業革命により大量の鉄の需要が発生し、高炉を使った近代製鉄に鉄の製造の主役を譲った後は、静かに姿を消していきました。
現在では、日本刀の材料「玉鋼(たまはがね)」の供給と、技術の伝承目的で全国で1箇所だけ「たたら」の操業が続けられていますが、これは非公開のため一般の人は見ることができません。その代わり「たたら」による製鉄が盛んに行われていた島根県の雲南市から奥出雲町を中心にした地域に「たたら」の史跡が複数残っています。
2016年4月には、文化庁より「出雲國(いずものくに)たたら風土記
~鉄づくり千年が生んだ物語~」として、「たたら」の史跡群が日本遺産に認定されました。先人が築き上げた「たたら」による製鉄の歴史を間近で振り返ることができる貴重な場所なのです。
それでは「たたら」による製鉄の史跡を訪ねていきましょう。
「たたら」の遺構と町並みが
当時のまま残る「菅谷たたら山内」

「たたら」による製鉄の史跡めぐり、最初は雲南市吉田町の「菅谷(すがや)たたら」へ。

菅谷たたらは江戸時代末期に造られた「たたら」の炉を覆う茅葺きの建物「高殿」が残っていて、さらに「たたら」で働いていた人たちが暮らしていた時の町並みもそのまま現代に残った全国で唯一の場所。国の重要有形民俗文化財にも指定されています。

菅谷たたらで鉄を造っていたのは、松江藩が抱えていた鉄師で出雲4大鉄師にも数えられていた田部(たなべ)家。江戸時代の1751年から、途中15年ほどの中断を挟みつつ、大正時代の1921年まで170年にわたり「たたら」の操業を行っていました。
高殿は2014年に保存修理工事が完了し、美しい姿で甦りました。中に入ると天井の高い建物の中に粘土でできた炉と両方から風を送り込む吹子(ふいご、鞴)があり、間近で見ることが可能です。

「高殿」の前にでると、菅谷たたら山内の町並みが広がります。「たたら」が操業していた頃は、この町並みの中を多くの人が往来していたのだろう……という思いに馳せて眺めて見ると感慨深いですね。
鉄の歴史博物館で、
たたら製鉄に関する歴史を学ぶ

菅谷たたら山内から、車で10分ほどの雲南市吉田町にある鉄の歴史博物館。菅谷たたらを操業していた田部家が所有していた資料を中心に「たたら」の製鉄に関する知識を得ることができます。鉄の歴史博物館に至る町並みもレトロな雰囲気を醸し出していますので、時間をとってゆっくり散策したいですね。
たたら鍛冶工房では、
刃物づくりの体験が可能

菅谷たたら山内から、車で15分ほどの距離にあるたたら鍛冶工房では、1週間前までに事前予約するとペーパーナイフや小刀を造る「刃物づくり体験」ができます。手軽に30分程度の時間で楽しめるペーパーナイフ造りは、工房の方の指導の下、火にかけて真っ赤になった鉄の釘を金槌で叩いて形を造る鍛造(たんぞう)を体験した後、最後はグラインダーで加工すると完成。
造ったペーパーナイフは記念に持ち帰ることができます。ガイドも体験してみましたが、自分の手で物を造り上げていくのは楽しく、素敵な旅の思い出になりますね。
「奥出雲 たたらと刀剣館」で
玉鋼を使った日本刀鍛錬の実演も

「たたら」による製鉄の史跡めぐり、続いては雲南市の南にある奥出雲町へ向かいます。

横田にある奥出雲 たたらと刀剣館には、実物大の「たたら」の炉の模型があります。炉として表面に見えているのはほんの一部分で、実際には炉の下に粘土や石が複雑に組み込まれていたことに驚きます。

「たたら」の炉を燃やし続けるために空気を送り込む吹子(ふいご)にも色々なものがあり、展示されている吹子の一部は実際に体験して動かすことができます。興味深いのは、この吹子から現在も会話の中で使われる言葉が生まれているということ。
踏吹子は、板を踏んでシーソーのように動かして空気を送りますが、地面に向けて交互に足を踏みつける姿から「地団駄を踏む」、また吹子を動かす人を「番子」と言いますが、櫓の上にかけた紐にぶら下がりながら板を踏む天秤吹子でも、複数人の番子が交代しながら3日3晩「たたら」の炉に空気を送り続けなければいけなかったので「かわりばんこ」という言葉が生まれたとのこと。何気なく使っている言葉の語源に意外な所で出会えることができました。
立派な邸宅と庭園を持つ
鉄師頭取の館、絲原記念館

「たたら」による製鉄の史跡めぐり、続いては奥出雲町大谷にある絲原(いとはら)記念館へ。 松江藩が抱えていた藩内5鉄師のひとつ絲原家が関わっていた「たたら」による製鉄の資料などを展示しています。

記念館には、「たたら」による製鉄の模様を展示した動く模型があったり、絲原家が所有する美術工芸品が展示されています。

記念館の奥にあるのは、大正時代に建てられた絲原家邸宅と庭園。邸宅の大戸口の中から建物の中を見たり、庭園の散策が可能です。昔ながらの雰囲気が残っていることもあり、1958年(昭和33年)公開の映画『絶唱』や2014年に放送されたTVドラマ『LEADERS』のロケ地となりました。邸宅の前には高殿の跡も残っていて、ここで「たたら」による製鉄が行われていたことを実感することができますね。
雲南市から奥出雲町にかけて「たたら」による製鉄の史跡をご紹介してきましたが、いかがだったでしょうか?
映画『もののけ姫』への登場や日本遺産に認定されたことは先に書きましたが、奥出雲での「たたら」による製鉄をテーマに描く映画『たたら侍』の公開、JR西日本が運行するクルーズトレイン「トワイライトエクスプレス瑞風(みずかぜ)」の山陽・山陰
2泊3日周遊コースにて菅谷たたら山内や雲南市吉田の街並みが立ち寄り観光地となるなど、「たたら」による製鉄の歴史に日々注目が高まりつつあります。
雲南市から奥出雲町にかけては、日本神話ゆかりの地も含めてたくさんの観光スポットがありますので、これらとあわせてゆっくりと時間をかけて訪ねてみて下さい。
「たたら」による製鉄の史跡へのアプローチ
- ・山陽新幹線 岡山駅から伯備線 特急「やくも」で出雲市駅へ。
- 首都圏方面からは、寝台特急「サンライズ出雲」で出雲市駅に向かう方法もあります。
【 おすすめの商品はコチラ 】
◎JTB
◎読売旅行
◎日本旅行
◎近畿日本ツーリスト
◎東武トップツアーズ
