【2023年1月20日】

旅行ジャーナリスト。旅行・観光のほか、鉄道、ホテル、都市開発など幅広いジャンルの取材記事を雑誌、オンライン問わず寄稿。メディア出演、連載多数。
金沢駅を降りたつと、外の気温は4℃。冬の北陸は、やっぱり寒い!でも、冬の北陸には寒い季節ならではの迫力満点の絶景や、舌がとろけそうになる海の幸がたくさんあると聞いて、旅に出ることにしました。今回の旅先は、石川県の能登半島。半島といっても、その広さは約2,400km²。東京23区のおよそ4倍もあります。
そんな広い能登半島のあちこちに散りばめられた、魅力たっぷりの名所・史跡・美食を楽しみながら、半島の最先端に位置する珠洲岬の「青の洞窟」を目指す、1泊2日の旅へとご案内します。
1日目:午前 千里浜ドライブウェイ
金沢駅前でレンタカーを借り、まずは、能登半島の西の海岸沿いを金沢市から穴水町まで結ぶ自動車専用道路「のと里山海道」を北上します。

車窓に目をやると低く垂れ込めた灰色の雲と、波しぶき立つ灰色の海がどこまでも広がっています。「あー、まさに森昌子さんの名曲『哀しみ本線
日本海』の歌詞に出てきそうな景色だなぁ」としみじみ。そう、冬の日本海は、演歌の世界なのであります。
「のと里山海道」を走ることおよそ30分で、最初の目的地「千里浜(ちりはま)なぎさドライブウェイ」に到着。この付近の海岸線は、砂浜でありながらクルマを走らせられる、全長約8キロメートルの砂浜ドライブウェイになっています。
このドライブウェイ、強風や降雪、荒波時は危険なのでクルマは通行規制されるとのことで、残念ながら訪れた日も通行止めになっていました(砂浜を歩くことは可能)。羽咋(はくい)市商工観光課に問い合わせたところ、「天候の荒れやすい冬は、2日に1回は通行止めになる」とのこと。

しかし、がっかりしてはいけません。実はここに来たメインの目的は、能登の七尾湾で採れる美味しい牡蠣(かき)が食べられるお店なのです。
訪れたのは「能登千里浜レストハウス」内のレストラン「浜焼き能登風土 千里浜店」さん。今回いただいたメニューは、殻つき牡蠣10個をはじめ、カキフライや牡蠣釜飯などが楽しめる「能登かきコース」(3,800円)。

能登の牡蠣といえば、夏が旬の天然物の岩牡蠣が有名ですが、この時期に食べられるのは、それよりも小ぶりな真牡蠣です。さて、そのお味はどのようなものなのでしょうか。早速、いただいてみることに。
牡蠣を殻ごと炭火に乗せて豪快に焼くと、殻の間からジュワ~っと汁が湧き出します。芳ばしい香りが漂いはじめた頃合いを見計らって、軍手とナイフでアツアツの身を殻の間から取り出して頬張ってみると、栄養満点間違いなしの濃厚な風味と肉厚のプリプリな食感を味わうことができました。

能登の牡蠣の特徴をレストハウス支配人の前多朝和さんにうかがうと、「他所では、養殖牡蠣は収穫までに2~3年かかることが多いですが、七尾湾は牡蠣のエサになるプランクトンが豊富なので1年牡蠣が多いです。その分、やや小ぶりではありますが、厳しい冬の寒さの中で身がしっかりと太るので、プリプリな食感になるのです」とのこと。
能登で真牡蠣が食べられるのは、10月から産卵期に入る前の春先まで。その後、夏になると岩牡蠣が採れるので、「能登では、ほぼ一年を通して、美味しく牡蠣が食べられます」(前多さん)とのこと。なんとも贅沢ですね!
●能登風土 千里浜店(能登千里浜レストハウス内)
住所:石川県羽咋市千里浜町タ4−1
電話番号:0767-22-2141
1日目:午後 妙成寺
満腹になったところで、レストハウスを後に、能登半島北部の輪島市方面に向かってクルマを走らせます。しばらく走ると、お寺があることを示す看板が目に入ってきました。

お寺の名前は妙成寺。鎌倉時代の1294(永仁2)年に日蓮聖人の弟子の日像聖人によって創建された寺院とのこと。現在の建物は、加賀百万石で有名な前田家が能登を治めた時代に建てられたもので、二王門、五重塔、本堂をはじめ、多くの建物が国の重要文化財に指定されています。

能登で有名な寺院といえば、總持寺祖院がすぐに思い浮かびますが、ほかにもこんなに素晴らしいお寺があるのかと、あらためて知ることができました。
旅とはなにかを一言で表すならば、非日常に身を置くことだと思います。そして、旅にお寺や神社が欠かせないのは、それ以上に非日常的な空間がないからではないでしょうか。森閑とした境内で心静かに手を合わせることで、日常の雑事にとらわれた心をリセットすることができます。
●妙成寺
住所:石川県羽咋市滝谷町ヨ-1
電話番号:0767-27-1226
1日目:午後
能登金剛(ヤセの断崖・義経の舟隠し)
今回の旅で訪れるのを楽しみにしていた場所の1つが、「能登金剛」と呼ばれる場所。断崖絶壁が続く海岸線が、朝鮮半島の景勝地「金剛山」の景色に似ていることから、その名がついたのだとか。

この「能登金剛」を全国的に一躍有名にしたのが、芥川賞作家でミステリー小説の大家であった故・松本清張さんの傑作ミステリー『ゼロの焦点』。新婚早々に金沢で夫が失踪した妻が、北陸の地で謎を解き明かしていくというストーリーで、何度か映画化もされており、最近では2009年に、広末涼子さん主演の映画が公開されて話題になりました。
「能登金剛」のうち、「ヤセの断崖」と呼ばれる海抜35mの断崖絶壁が、この映画の重要な場面のロケ地になっており、現地に足を運ぶと「あー、映画に映っていた場所だ!」とすぐに分かりました。岩礁に打ち寄せる波とはじけ散る波しぶきを眺めていると、今にも吸い込まれそうに感じます。

「ヤセの断崖」から海に向かって遊歩道を少し左手に進んだ先には「義経の舟隠し」と呼ばれる、断崖の亀裂が入江のようになっている場所があります。兄・頼朝に追われ、奥州へと落ち延びる義経と弁慶一行が、この入江に48隻の舟を隠したと伝わっています。

義経といえば、『勧進帳』で有名な「安宅の関」も石川県の史跡ですね。義経と弁慶は、どのような思いで、この日本海の荒波を眺めたのでしょうか。
●能登金剛(ヤセの断崖)
住所:石川県羽咋郡志賀町笹波
1日目:午後 白米千枚田ライトアップ
さて、1日目の最後の目的地は「白米(しろよね)千枚田」です。どんな場所かを簡単に説明すると、日本海に面した約4haの斜面に1004枚もの小さな田が連なる棚田で、昼間の風景は、このような感じです。

日暮れとともに、あぜ道に設置された無数のソーラーLEDが点灯し、暗闇の中に、田んぼ1枚1枚の形が浮かび上がります。このライトアップイベント「輪島・白米千枚田あぜのきらめき」は秋冬限定で行われています。

ライトアップされた千枚田の全景を見渡すには、隣接する「道の駅 千枚田ポケットパーク」の駐車場がベストポジション。また、駐車場から千枚田に下りていき、ライトアップされたあぜ道を歩くこともできます。
LEDの色は15分ごとに、ピンク・グリーン・ゴールド・ブルーと変化するので、好みの色のときに最高の記念写真を撮影しましょう。
●白米千枚田
住所:石川県輪島市白米町99-5
電話番号:0768-34-1004(道の駅 千枚田ポケットパーク)
ライトアップ「輪島・白米千枚田あぜのきらめき」は、10月中旬~3月中旬の日暮れ後に実施
さて、ライトアップを堪能した後は、来た道を輪島市内まで少し戻り、宿でのんびり。旅の夜といえば、気になるのはお酒ですが、能登は地酒も豊富です。能登の米と水を使ったスッキリした飲み口の「竹葉(ちくは)」(数馬酒造)や、全国新酒鑑評会で3度も金賞の受賞実績がある、ピリッとした辛口の「能登誉」(清水酒造)などをお楽しみください。
2日目:午前 輪島朝市
2日目の朝は、あいにくの雨。でも、能登の風景には不思議と雪や雨が似合います。
朝一番に向かったのは、有名な輪島朝市。”まいもん”(”美味いもの”を意味する能登弁)を求めて、朝食をとらずに出かけました。

そして、みつけたのが、露店にずらりと並ぶ能登の冬の味覚の代表格、香箱ガニ。香箱ガニはズワイガニの雌で、11月~12月が旬。雄に比べると小ぶりですが、味が良く、卵をぎっしりと抱いています。
露店では食べやすいようにさばいた状態でパックされたものも売られています。露店のお母さんに話を聞くと、「地元の人は香箱ガニが解禁になると、お使い物にするよ。子どものところに送ったりね。昔はおやつ代わりに食べたけど、今は高くなったね」とのこと。それでも1杯1,000円ですから、東京や大阪での相場に比べると、はるかに安いですね。

割り箸を用意してもらい、その場で早速、食べてみることに。風味豊かな脚身に、卵のプチプチとした食感、そして、お楽しみのカニミソは箸で掻き出して最後までいただきます。
輪島朝市の品揃えはバラエティー豊かで、新鮮な魚貝のほか、干物、海藻、野菜、塩漬けにした魚介を発酵・熟成させてつくる奥能登の伝統調味料「いしる」、さらに民芸品・工芸品なども売られていました。

気になったのが、「えがらまんじゅう」という輪島っ子の定番おやつ。クチナシで色付けした黄色いもち米をまぶしたおまんじゅうで、見た目が栗の「いが」に似ていることから、「いが」がなまって「えがら」になったのだとか。朝市では、蒸したてホカホカの「えがらまんじゅう」も食べられますよ。

●輪島朝市
住所:石川県輪島市河井町(朝市通り)
電話番号:0768-22-7653(輪島市朝市組合)
2日目:午前 窓岩と道の駅 すず塩田村
輪島朝市で”まいもん”を食べた後、北に向かってクルマを走らせていると、昨夜、ライトアップを楽しんだ「白米千枚田」が見えてきました。あらためて立ち寄ってみると、夜と昼とでは、まるで別の場所のようです。
さらに少し行くと、町野川の河口付近に「窓岩」があります。能登の海岸線には軍艦のような姿の「見附岩」や、咆哮するゴジラの顔のような「ゴジラ岩」など様々な奇岩がありますが、この「窓岩」もそのうちの1つ。板状の岩壁に2メートルくらいの「窓」が開いていて、夕方に訪れると、運が良いと窓から夕日が差し込むのが見えるそうです。

なお、この辺りは「能登平家の郷」とも呼ばれています。平清盛の妻・時子の弟で、「平家に非ずんば、人に非ず」という言葉で知られる平大納言時忠は、壇ノ浦の戦いで平家一門が滅亡した後、この奥能登の地に流され、生涯を終えました。この付近には、時忠の子孫とされる一族の屋敷などもあります。
「窓岩」から5kmほど先にある「道の駅
すず塩田村」にも立ち寄ってみましょう。塩田(えんでん)とは昔の製塩所であり、この辺りの仁江(にえ)海岸では、500年以上前から続く伝統的な「揚げ浜式製塩」という製法で、海水を利用して塩がつくられてきました。

伝統的な製法でつくられた塩などが販売されているほか、道の駅に隣接して塩づくりの歴史が学べる塩の総合資料館「揚浜館」、実際に塩づくりが体験できる体験塩田もあります。
●道の駅
すず塩田村
住所:石川県珠洲市清水町1-58-1
電話番号:0768-87-2040
2日目:午後 庄屋の館
昼食は、「道の駅 すず塩田村」の近くにある「庄屋の館」さんで、これまた冬の味覚であるあんこう料理をいただきました。今回、用意していただいたのは「あんこうコース料理」(4,400円)。

この辺りであんこうというと、新潟県の糸魚川あたりが有名ですが、能登でもあんこうが捕れるのでしょうか。「庄屋の館」を運営する「有限会社のとかん」の代表取締役、和田丈太郎さんに聞くと、「能登でもあんこうは、そこそこの水揚げ量があります。今まで、あまり注目されてなかったので、もっとスポットライトを当てようということで、地元の珠洲(すず)市では、10年ほど前からあんこう料理を味わっていただくキャンペーンを冬に行っています」とのこと。
さて、料理をいただく前に、今朝、水揚げされたばかりというあんこうを見せていただくことに。和田さんに持っていただくと、ずいぶん大きいのが分かります。重さはなんと、12キロ!

和田さんによると、あんこうは➀ヒレ、➁皮、➂エラ、➃肝(あん肝)、➄胃袋、➅卵巣(ぬの)、➆身 とほぼ全ての部位を料理に使うことができ、捨てる部分がないのだそうです。とくにお鍋は肝と卵巣以外の全てが入っている、まさにあんこうを丸ごといただける料理といえます。
さあ、お鍋がグツグツと煮えてきました。まずは、柔らかくほぐれやすい身の部分を野菜と一緒に頬張り、次に、プルプルしているコラーゲンたっぷりの皮の部分もいただきます。これは女性に喜ばれそうですね。

そして、お楽しみはやはり、あん肝。その食感から「海のフォアグラ」とも呼ばれている珍味です。ほかに、あんこうの酢の物、唐揚げなども贅沢にいただき大満足。
あんこうが食べられるのは11月から3月、旬の時期は12月から3月とのこと。能登の”新しい”名物を、味わってみてはいかがでしょうか。
●庄屋の館
住所:石川県珠洲市真浦町10-1
電話番号:0768-32-0372
2日目:午後 青の洞窟
今回の旅の最後の目的地は、能登半島の先端・珠洲岬にある「青の洞窟」。「青の洞窟」と言えば、イタリア・ナポリのカプリ島が有名ですが、能登の「青の洞窟」は、どのようなものなのでしょうか。珠洲岬の一帯は有料エリアになっており、1,500円の入場料を支払って入場します。
まず、目の前に現われるのが「空中展望台 スカイバード」。絶壁の上に建つ和風の櫓(やぐら)のような建物から空中に9.5mほど突き出した展望台の先端に立つと、かなりの高さがあるので足がすくみそうに。展望台の下には、かつて、電気が来ていなかった時代にランプの灯りで夜を過ごしたことからその名が付き、今や人気の旅館になった「よしが浦温泉 ランプの宿」の建物群が見えます。
吹き付ける強風で幹が曲がってしまった岬の先端の木々を眺めながら階段を下りていくと、そこにあるのは、岩壁に穿たれたトンネルの入口。このトンネルを進んだ先に広がっているのが、青色のライトに浮かび上がった神秘的な空間「青の洞窟」です。ミュージカル好き、映画好きの人ならば、『オペラ座の怪人』に登場する、地下宮殿を思い浮かべるかもしれませんね。

この洞窟は、波によって浸食された海食洞窟が、地震によって隆起してできたものなのでしょう。洞窟の位置は、波打ち際よりも少し高くなっています。かつては海からしか入ることができなかったのを、10年ほど前に、さきほどのトンネルを掘り、陸側からも入れるようにしたとのこと。
今や人気の観光スポットになっています。
●青の洞窟
住所:石川県珠洲市三崎町寺家10-13
電話番号:0768-86-8000(よしが浦温泉 ランプの宿)
さて、冬の能登1泊2日の旅、いかがだったでしょうか。能登旅行の玄関口・金沢駅までは大阪から特急「サンダーバード」で約2時間40分。今後は、北陸新幹線の敦賀延伸も予定されており、さらに便利になりますね。絶景も美味しいものもたくさん味わいました。防寒対策を忘れずに、冬の能登へお出かけください。
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