「SHIMANAMI LEMON BIKE/SHIMANAMI LEMON e-BIKE」とは・・・・・地元自治体と大学との連携で実施した「瀬戸内カレッジ」の参加大学、神戸松蔭女子学院大学の学生チームの提案から生まれた自転車(電動式・非電動式)。「若い女性が『乗って楽しい』『写真を撮りたくなる』自転車」がコンセプトで、細部までレモンをイメージしてかわいく仕上げられています。
世界中のサイクリストに愛される
尾道の町並み、しまなみの自然
―「サイクリストの聖地」として広く知られるようになった尾道・しまなみエリア。地元で暮らすみなさんの活動や、町の変化を教えてください。
丸谷さん:もともと瀬戸田の人間で、地元に戻って活動を始めたのは2009年からです。「しまなみをサイクリングのメッカに」という実証実験は、生口島の島内区間が未開通だった2001年ごろから、既に全線開通を想定して始まっていました。2010年には私を含め、観光に携わるメンバーが集まって「サイクリストの聖地」に向けた活動の発表会を開きました。そのころから、徐々に本格的なブームが到来しつつあったように感じます。
岩崎さん:ここ10年ぐらいで、しまなみ海道は世界的にも有名になりましたね。
丸谷さん:CNN(米国のニュースチャンネル)から「世界のサイクリングコース7選」に選ばれましたし、2019年には国際水準を満たす自転車道として、国交省の「ナショナルサイクルルート」にも選定されました。地元民として嬉しい限りです。
渋谷さん:私は都内で自転車ショップを運営していますが、15年くらい前、お客さま向けに「しまなみサイクリングツアー」を企画して、初めて尾道を訪れました。それ以来、よく足を運ぶようになって、2019年にはこちらに新店をオープンしました。
岩崎さん:尾道に拠点を構えようと思われた理由は?
渋谷さん:いろんな方と知り合って話すうちに、しまなみを本気で走るサイクリスト向けではなく、「ゆるくサイクリングを楽しむ人」をターゲットにした仕掛けが必要なんじゃないかと思ったんです。のんびり走る人は、食事をしたり、お土産を買ったり、宿泊したりするはず。観光地の理想形ですよね。尾道で開業するにあたり、年配の方でも楽に走れるe-バイク(電動自転車)を扱うことも決めました。
馬場さん:私は趣味のロードバイクがきっかけで、2016年からこちらに住んで自転車ショップの店長をしています。移住したころと比べると、軽装で気軽にサイクリングを楽しむ家族やグループ、団体のツアー客が増えましたね。キャンプなどのアウトドアとセットで自転車に乗る人も多くなりました。
細部までレモンカラーで統一した
JR西日本オリジナル自転車
―2020年には新しいレンタサイクル「SHIMANAMI LEMON BIKE」「SHIMANAMI LEMON e-BIKE」が誕生しました。
星島さん:JR西日本の「尾道・しまなみサイクリングきっぷ」の発売に合わせて、みなさんに開発・制作をお願いしました。おかげさまで、2020年7月から発売を開始し、多くのお客さまにご利用いただいています。セットプランとは別に、丸谷さんのお店などでレンタルされた方も含め、トータルの利用者は2,000人以上です。
岩崎さん:サイクリングをセットにした企画商品はJR西日本としてもめずらしく、コロナ禍での発売でしたが、反響の大きさに手ごたえを感じています。自転車を一から作るのは大変だったと思います。
馬場さん:当初「黄色い自転車を作りたい」という話をいただいて、学生の原案を見たら、タイヤ部分がレモンの輪切りをイメージしたものだったんです(笑)。このままでは風で倒れるなど安全性に問題があるので、当社オリジナルの「ミキスト」のフレームを黄色にペイントして、レモンのワタを連想させる白色のタイヤを合わせる案を出させてもらいました。いちばん苦労したのは55台分の塗装ですね。手作業で時間がかかりましたが、「良いものを作りたい」という思いで頑張りました。
渋谷さん:私の東京の店はカスタムがメインで、オリジナル部品などもそろっているので、「電動式のレモンバイクを」と声をかけていただいた時、要望に応えるのはそう難しくないと思いました。自店で対応できない塗装は中国の工場に頼んだのですが、そのレスポンスがスムーズにいかないなどの苦労はありました。でもコンセプトを詰めたり、使う部品を決めたりという作業は楽しかったですね。何より完成した時はすごく嬉しかった。
岩崎さん:出来上がってみて感じたのですが、ありそうでなかった自転車だと思います。ちょっと耳にしたんですが、レモンバイク同士がサイクリング途中に出会うと、仲間意識が芽生えて嬉しいみたいですよ。みなさんはお客さまの反応をどう捉えていますか?
丸谷さん:瀬戸田港のそばの「しまなみロマン」でレモンバイクを貸し出していますが、港に降り立ってすぐに黄色い自転車がずらっと並んでいるので、お客さまも思わず「わぁ~!」と声を上げられています。最近は率先して「写真を撮りましょうか」とお声がけして、その触れ合いが私も楽しいんです。JRきっぷがきっかけで、しまなみを再訪したという方も結構いらっしゃいますよ。
馬場さん:尾道市内でもレモンバイクが走る姿をよく見かけます。みなさん楽しそうで、その様子を見るとこちらも嬉しくなりますね。
レモンの島「瀬戸田」をはじめ
観光の可能性を秘めた尾道・しまなみエリア
―レモンバイク開発のきっかけになったのが「瀬戸田レモン」です。レモンを絡めた瀬戸田の町おこしや、地域への思いをお聞かせください。
丸谷さん:瀬戸田レモンを使った商品は以前からありましたが、ここ数年で多方面から注目されるようになり、商品ラインナップがぐんと増えました。それから瀬戸田地区の小中学校では、教育の一環としてSLP(瀬戸田レモンプロジェクト)を立ち上げて、児童・生徒が連携してレモン商品を開発したり、レモン旅マップを作ったりしています。
渋谷さん:実は私も瀬戸田町の畑を借りて、レモン栽培を始めました。いずれは地元の農家さんと自分が育てたレモンを、都心部の店に卸す予定です。都内では瀬戸田レモンを扱う店が意外と少ないので、十分ニーズがあると思っています。
岩崎さん:馬場さんは町を盛り上げるために、何か活動されていますか?
馬場さん:私が尾道を拠点にしたきっかけは、クルマ移動が多い地元の方に自転車のファンになってほしいという思いからです。自転車に乗る人が増えたら渋滞が緩和されますし、何より環境にも優しい。これからも地域の方に寄り添いながら、町の活性化につながるような仕事をしていきたいですね。
岩崎さん:2021年春には、瀬戸田に宿泊・観光案内所などの機能を備えた「SOIL SETODA」もオープン予定です。一方私たちJRグループとしては、自転車を積んで尾道~瀬戸田航路を運航する「サイクルシップ・ラズリ」や、広島港~三原港を結ぶ観光型高速クルーザー「シー スピカ」を関係のみなさまのご協力を得て、相次いでスタートしました。コロナが落ち着いてお客さまが戻ってきた時に、より楽しい旅ができるように、いろんな整備を進めているところです。
柑橘の花の香りに包まれる季節の
サイクリングがおすすめ
―最後に、地元に暮らす人ならではの目線で、おすすめスポットなどを教えてください。
馬場さん:しまなみ海道とは別に、因島から船でアクセスできる離島サイクリングロード「ゆめしま海道」があります。その中のひとつ「佐島」の南端にブルーライン(サイクリング推奨ルート)がUターンしている珍しいスポットがあるんです。前方には静かできれいなビーチが広がっていて、かなり穴場な感じですよ。
丸谷さん:瀬戸田生まれとしておすすめしたいのは、島全体がレモンやミカンの花の香りに包まれるシーズンです。GW前から6月初旬にぜひ来島してもらいたいですね。
渋谷さん・馬場さん:自転車で走っていても、さわやかな香りが漂ってきて、本当に気持ちがいい季節ですよね。
星島さん:やはり、地元の方でないと知らない情報がまだまだありそうですね。地域のみなさまと一緒になって、これからも尾道・しまなみエリアの魅力を発信していきたいです。
丸谷 伸治(まるたに しんじ)氏
馬場 秀雄(ばば ひでお)氏
渋谷 正昭(しぶや まさあき)氏
岩崎 優(いわさき ゆう)氏
星島 久美(ほしじま くみ)氏
本座談会は2021年3月3日に行われたものです。