瀬戸内海と鷲羽山の自然を
すぐそばに感じられる贅沢な場所
―グランピング施設が建つ児島・鷲羽山エリアの印象をお聞かせください。
川西氏:私は奈良の生まれで、海には全くなじみがないんです。たまに海を見ると、奈良県民の一人として、必ず「海や!」と言ってしまうくらい。今回、総合デザインのお話をいただいて、初めてこの地を訪れましたが、やはり自然の雄大さに感動しましたね。すぐ目の前に海が広がって、瀬戸大橋が架かるのを待っていたようにホテルが建っている。聞きしに勝る景勝地で、まだまだ宝が埋もれているように感じました。
永山氏:児島で育った私にとって、潮の匂いや波の音は日常です。「海や!」という感覚はあまりありませんが(笑)、鷲羽山下電ホテルの立地がすばらしいという自負は抱いて仕事をしてきました。グランピング施設を新設した場所も、昭和30年代まではホテルがあった敷地です。活用法が見つからないまま何十年も経っていましたが、逆に眠らせておいて良かった。JR西日本さんの後押しで、せとうちグランピングに着手して、改めてこの場所の価値を知ることができました。
コンセプトは時間のデザインとここにしかない空間づくり
―総合デザインを手がけられるにあたり、川西先生がテーマにされたことは?
川西氏:初めに提案させてもらったのが、「時間をデザインすること」です。瀬戸内の海や空の色は刻一刻と変化して、その移ろいはとても美しい。お客様にこの景色を心行くまで楽しんでもらう仕掛けが必要だと感じました。それから、鷲羽山下電ホテルには、散策できる海岸や松林、大浴場やプールなど、居場所の選択肢がたくさんあります。お客様の回遊性を高めることで、ここで過ごす時間がいっそう豊かになると思いましたね。
永山氏:全国各地に続々とグランピング施設がオープンしているので、他とは差別化を図りたいという思いは、私たちも当初から抱いていました。
川西氏:プロジェクトの始動に合わせて、いくつかグランピング施設を見学しましたが、いずれもキャンプをメインに設備を充実させた印象でした。その点、せとうちグランピングには、アウトドアの楽しさも豊かな自然もホテルの利便性も全部入っている。こんなグランピング施設は他にないと思いますよ。
永山氏:ドームテントの内装にも、川西先生の力を存分に発揮していただきました。
川西氏:テーマにもう一つ掲げたのが、「ここにしかない空間を作ること」です。半球型のドームテント内でお客様が直接手を触れるものは、倉敷をメインに、可能な限り岡山県内の特産品でコーディネートしました。
内装やインテリアに岡山のものづくり技術を結集
―具体的に県内のどのような特産品を採用されましたか?
川西氏:コラボさせていただいたのは、ベティスミス(デニムのカーテン・ベッドスローなど)、倉敷帆布(テント入口ののれん・テーブルクロスなど)、ナカオランプ(インテリア照明)、脇木工(ソファ)、西粟倉・森の学校(ソファ足元に敷設した床材)の5社です。各社にテーマカラー(海や空をイメージした紺・砂浜をイメージした白・児島エリアの町並みをイメージした補助色としての黒焦げ茶)と、自然素材を使いたいという要望を伝えて、ベストなアイテムを提案してもらいました。
永山氏:地元に長くいると、身近な良いものを意外と知りません。実は聞きなれない企業や製品もありましたが、川西先生のコーディネート力は本当にすばらしかった。セレクトされたものがドーム空間にぴたっとはまった感じです。
川西氏:各社の選りすぐり製品ばかりなんですよ。例えば、グランピングでもっとも長い時間を過ごすのがソファです。テントに入ってまず座る場所でもある。だからこそ、品質の良さと飽きのこないデザインにこだわりました。インテリア照明は、松林の中にある施設ということで、松ぼっくりをイメージしています。照明は直接見るとまぶしさが強調されますが、何かに反射することで光がぐっと柔らかくなる。ヒノキでできた松ぼっくりの葉がその役目を果たしています。
永山氏:地元の企業と連携したことで、岡山という地域の文化や産業がもっと広まってくれたらと期待しています。
川西氏:宿泊されたお客様が、例えばデニムのカーテンに触れて、「なぜ児島がデニムの産地?」というような興味を抱いてくれると嬉しいですね。そこから新しいことを知る。滞在が豊かになりますし、再訪にもつながる本来の観光の形だと思います。
■ドームのインテリアに使われた岡山の特産品
永山氏:ホテルが運営するグランピング施設ということで、私たちが大事にしているお客様のプライバシーにも配慮していただきました。
川西氏:5つのドームテントには、ソファを据えたウッドデッキを併設していますが、1~3号室はこのデッキ部分を少し下げて、外部空間を彫り込む設計にしています。こうすることで、くぼんだデッキスペースに潜ってくつろぐ「囲われ感」を表現しました。ちょうど竪穴式住居のような感じです。同時に間接照明を取り入れて、明かりのポイントを低くしています。人の視線や風、照明のまぶしさを遮ることで、目の前の海の変化を気が済むまで眺められる。これが、先ほどもお話しした「時間をデザインする」工夫のひとつです。
国立公園内の施設だからこそ自然環境にも心配りを
―特に重視されたポイント、意識された点などはありますか?
川西氏:瀬戸内海国立公園内に作る施設なので、自然と共生できる工作物ということをしっかり考えました。周辺環境に影響を与えないこと、自然本来の色を損なわない仕上げにすることなどを、デザインや素材選びに生かしています。砂浜に設けたパーゴラ(食事空間)の設計も、少ない柱で日陰棚を支えられる双曲放物面(HPシェル)構造を採用して、軽さと耐久性・耐風性を実現しました。景観に溶け込むユニークな形状は、鷲羽山にちなんで鷲が羽を広げたようなデザインです。
永山氏:パーゴラは食事をするだけでなく、人前式やパーティなどにも使ってもらいたいと思っています。実際にお客様から要望が寄せられていて、結婚式の前撮りを希望される方もいらっしゃいます。いずれは、挙式とパーティ、ドームテント宿泊のセットでご利用いただけたらと思っています。
お客様の目線に立って満足度の高い滞在を提供していく
―せとうちグランピングのこれからの展望や可能性についてお聞かせください。
永山氏:実証実験中に宿泊されたお客様から、「ソファでずっと景色を見て過ごしました」「何をすればいいんだろう?と思っていたけど、あっという間に1日経ちました」などの感想をいただきました。特に何もせず、自分の時間を満喫される方が多かったというのは、私たちの理想に近づいているということ。とても嬉しく思います。
川西氏:もしかしたら、せとうちグランピングを通して、日本人の滞在スタイルが変化するかもしれませんね。これまで観光地巡りで忙しい旅行ばかりしていた人が、宿泊施設でのんびり過ごすということに、新しい価値を見出すようになるのではないでしょうか。
永山氏:滞在の本質を知ってもらう良いきっかけになるかもしれません。ロケーションとこだわりの空間がこの施設の魅力ですが、当社はそれらプラスでホテルのDNAをもっています。地産食材を使った食事や細やかなサービスでお客様をおもてなしし、「時間を大切に過ごす」という贅沢を提供していきたいです。
川西氏:私が願うのは、やはり瀬戸内の自然に抱かれたこの施設で、海と空の時間ごとの変化を肌で感じてほしいということです。非日常の空間だからこそ見つけられる、人それぞれの発見があればと思っています。
◆魅力あふれるせとうちグランピングについて詳しくはこちら
川西 康之(かわにし やすゆき)さん
永山 久徳(ながやま ひさのり)さん