チーズ専門店『フロマジュリーピノ』店主・木村潤さん
東京やフランスなどでフランス料理を学んだ経験を生かし、2008年に地元の広島でチーズ専門店をオープン。広島の蔵元から「うちの酒にチーズを合わせてほしい」「日本酒とチーズの勉強会をしよう」と声をかけられたことをきっかけに、広島の酒のおいしさや、日本酒とチーズを組み合わせる意外なおいしさに目覚め、蔵巡りをするようになったそうです。
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チーズ専門店『フロマジュリーピノ』店主・木村潤さん
東京やフランスなどでフランス料理を学んだ経験を生かし、2008年に地元の広島でチーズ専門店をオープン。広島の蔵元から「うちの酒にチーズを合わせてほしい」「日本酒とチーズの勉強会をしよう」と声をかけられたことをきっかけに、広島の酒のおいしさや、日本酒とチーズを組み合わせる意外なおいしさに目覚め、蔵巡りをするようになったそうです。
東広島市西条駅周辺の「西条酒蔵通り」にある案内看板。多数の酒蔵が点在して観光名所にもなっている。
洋館と白壁のレトロな雰囲気の「賀茂鶴酒造」
西条で最も高い赤レンガの煙突が目印の「福美人酒造」
私が蔵を巡る際に参考にしたのは、広島県酒造組合の1958(昭和33)年の名簿です。それには約180もの蔵名が並んでいますが、2020年3月現在も営業しているのは45軒ほど。廃業した蔵の跡地にも足を運び、広島の酒を育んだ風土や先人たちの息吹を感じています。
広島に限らず、かつては物流や人の往来が活発な土地には、必ずと言っていいほど造り酒屋がありました。広島では安芸路や吉備路といった街道沿いや、瀬戸内海の潮待ち港、呉の軍港周辺、県北の米どころなどで酒造りが盛んに行われていました。現在はわずかになりましたが、島嶼部にも蔵が林立していたそうです。
日本酒の消費量の減少や後継者問題などから、廃業していく蔵が後を絶たない状況が続く中で、「広島の酒を盛り立てよう。もっとうまい酒を造ろう」という旗振り役になったのが、「相原酒造」「宝剣酒造」(呉市)、「天寶一酒造」(福山市)、「金光酒造」「今田酒造本店」(東広島市)、「美和桜酒造」(三次市)の6人の蔵元による「魂志会(こんしかい)」です。地域も世代もバラバラですが、みなさん酒造りへの情熱にあふれ、酒販店や飲食店との勉強会や、県内外でのイベントのほか、新たな試みにも意欲的に取り組まれています。例えば「今田酒造本店」は、最近、精米機メーカーのサタケさんと、新たな精米技術を用いた酒造りに挑戦され、今後の展開にも注目が集まっています。
また近年は蔵元の世代交代が進み、20~30代の若い世代が奮闘している蔵が増えてきました。例えば「藤井酒造」(竹原市)の6代目や、「旭鳳酒造」(広島市)の7代目など。彼らは受け継がれてきた伝統を継承しつつ、自分たちの独自の感性を酒造りに生かしたり、若い人にも楽しんでもらえるようなPR活動に取り組んだりして、広島の酒の新たなファンを獲得しています。そして、言われすぎていると思うのであまり言いたくないですが、イケメンです。
竹原市にある藤井酒造の6代目・藤井義大さん。
広島市安佐北区可部にある旭鳳酒造の7代目・濱村洋平さん。
先にあげた「魂志会」や若手に限らず、県内の蔵元や杜氏の方々は、昔から横のつながりを大切にされ情報交換の機会も多く、酒談義が白熱すると「そこまで言うか!」というくらい、批評し合うこともあるのだとか。また県立総合技術研究所でも、新しい酵母や酒米の開発に取り組み、定期的な勉強会を蔵と合同で行っているそうです。広島の酒造りには長い歴史と伝統がありますが、行政と蔵、そして農家も一緒になってお互いを高め合い進化してきた今、広島の酒は史上最高においしくなっているのではないでしょうか。個人的には「これ以上おいしくなりようがあるのか?」というレベルだと感じています。にもかかわらず、酒造関係者のみなさんは「もっともっと」と切磋琢磨されているので、今後もさらに広島の酒がおいしくなっていくことが、楽しみで仕方ありません。
そんな広島の酒について「どんな酒なの?」と聞かれると、規模も、設備も、酒の味わいも、蔵によってさまざま。「榎酒造」(呉市)の貴醸酒のように海外でも人気の高いものもあれば、「賀茂鶴酒造」(東広島市)や「三宅本店」(呉市)のような全国的に知名度の高いもの、「小野酒造」(北広島町)や「三輪酒造」(神石高原町)などのように地域の生活に根付いているものもあります。他にもマンションの地下に蔵がある「原本店」(広島市)、NHKの朝ドラにも登場した「竹鶴酒造」(竹原市)など挙げればきりがなく、決して一口に語ることはできません。共通して言えるのは、広島の酒は、広島で、広島の食材と味わうのが最高の楽しみ方ということ。造られているご当地で飲むことができれば、なお一層おいしく感じられることと思います。飲食店でどれを飲もうか迷ったときは、「すっきり」「フルーティー」「コクがある」などの好みを伝えて、お店の人に料理とペアリングしてもらうのがおすすめです。ぜひ個性豊かな広島の酒の世界を、味わってみていただきたいです。
TEXT BY TJ Hiroshima-タウン情報ひろしま