吟醸酒の父・三浦仙三郎、
安芸津三津で日本酒革命!
安芸津の酒造りは江戸時代にまで遡ります。広島藩の米の集積地であった当時、藩の財政のために米を高価値な日本酒に変えて流通させたことから、広島の酒造りは発展していきます。明治になり日本酒は革新期へ。もともと広島は軟水の地で、日本酒作りには不向きとされていましたが、安芸津町の醸造家・三浦仙三郎が「軟水醸造法」を発明。硬水に較べて発酵が進みにくい軟水を逆手に取り、醪をゆっくり発酵させることで甘くふくよかな日本酒造りを可能にしました。これが現代で人気の「吟醸酒」の始まりです。仙三郎の技術を身につけた安芸津の杜氏によって吟醸造りが各地に普及したとされています。
映画「恋のしずく」の
ロケ地となった老舗酒蔵
潮風薫る安芸津港から徒歩約6分、昭和レトロな建物が残る街並みを抜けると、重厚感あふれる蔵構えの「柄酒造」が見えてきます。こちらは三浦仙三郎の軟水醸造法を受け継ぎ、今もなお手造りの味を追求する小さな酒蔵。現在、8代目となる杜氏・柄宣行さんがスタッフ1名とともにたった2人で酒造り行っています。また、柄酒造は東広島が舞台となった日本酒映画「恋のしずく」の酒蔵モデルになったことでも有名。実際にロケ地として活用され、スクリーンに映し出された場所では映画の名シーンが蘇ってきます。
西日本豪雨で被災…
地元の人の後押しで再スタート
まだ記憶に新しい2018年7月の西日本豪雨。柄酒造も浸水被害に遭い、大きな打撃を受けました。醸造に必要な道具や機械類、そして酒造りの要である麹室がドロ水に飲まれ、壊滅的な状態だったそうです。「被災直後は何も考えられず、酒造りをやめようと思っていました。そんな中、地元の人が積極的に蔵を片付けてくれまして。少しずつ綺麗になっていく蔵を見ていくうちに気持ちが前向きになり、蔵の再興を決意しました」。被災して約3ヶ月後から本格的に動き出し、翌年1月には酒造りを再開。「たくさんの方に支えていただき、流通は厳しいと思っていた新酒をお客様へ届けることができました」と目頭を熱くする柄さん。当時の辛い心境を語ってくださいました。
被災翌日から蔵の片付けをした地元の方々。写真は毎年行っている地域の酒造り体験の風景。被災後も変わらず実施をしているそう。
「大吟醸 於多福(おたふく)」が
広島県清酒品評会で金賞
柄酒造の代表銘柄は「於多福(おたふく)」。大吟醸、純米吟醸、純米と展開しています。中でも大吟醸は、2020年第115回広島県清酒品評会千本錦の部で金賞を受賞。「今回の酒は米も酵母も “オール広島”に拘って造ったものなので、広島県で一番になれたことは本当にうれしかった。香りは少し大人しめですが、味わいの調和が取れた1本に仕上がりました」と自信作となっているようです。また、受賞した大吟醸をはじめ純米吟醸、純米はいずれも食中酒向き。合わせる料理も様々で、大吟醸はタイの刺身、純米吟醸は小イワシの天ぷら、純米はカワハギの煮付けが柄さんお薦めのペアリング。「地域で醸す酒は、自然とその街の味に合うお酒になっていきます。安芸津の空気や魚とともに日本酒を味わうと一味も二味も違います」。
寝床に就くまで酒造り。
呑んべぇが作る日常酒
自称 “呑んべぇ”と言うほど大の酒好きの柄さん。「柄酒造は、毎日飲んでも飽きない、喉をスルスルと通る味わいを目指しています。呑んべぇだから造れる日常酒ですね」。品質管理と言って毎晩お酒を嗜む姿に奥様は呆れ顔になることもあるそうです。また、理想の日本酒について伺うと、「昨年よりも良い日本酒です。米も水も麹もその年によって違う。だから酒造りは毎年1年生なんですよ」。謙虚ながらベストな味わいを追求する姿勢に頭が下がります。そして、2020年秋には嬉しい話題も。9代目となる息子さんが蔵に入ることが決まったそうです。次世代へ受け継がれていく柄酒造の酒造り。新酒のようなフレッシュが加わり、磨きのかかった新たな日本酒を心待ちにしたい。
8代目蔵元兼杜氏の柄信行さん
安芸津町出身。酒造り歴35年。杜氏はもちろんのこと、社長、事務員、配送係などの業務を全て一人で行っています。
柄酒造
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広島県東広島市安芸津町三津4228
0846-45-0009
営業時間/8:00〜17:00
定休⽇/不定休
URL/ https://www.tsukasyuzou.jp
※新型コロナウイルス感染予防対策を徹底し、お客様が安心して来店できる環境を整えています。
TEXT BY TJ Hiroshima-タウン情報ひろしま