首都圏で人気の蔵元。
女性杜氏が醸す伝統と革新
「軟水醸造法」を生み出し、吟醸酒の礎を築いた三浦仙三郎。その伝統と思いを継いだ安芸津にある2つの蔵元の1つが「今田酒造本店」です。体力勝負の酒造りの現場では珍しく、5代目杜氏・今田さんを含む約半数が女性という蔵です。今田さんの祖父の時代に支店が東京にあった名残で、今も出荷量の約半分は首都圏。小さな蔵だからこそできるきめ細やかで丁寧な仕事は常に高い評価を得ています。伝統を守りながらも、新しいことに果敢に挑戦する今田さんに最近の取組みを語っていただきました。
世界中で富久長だけ。
幻の米「八反草」による酒造り
広島で生まれ、育種されてきた酒造好適米の系統の1つである「八反系統」。そのルーツとされるのが「八反草(はったんそう)」という品種です。草丈が高い八反草は、栽培の難しさから一度消えてなくなった幻の米。今田さんは、品種改良をされていない八反草にロマンを感じ、2000年に復活をスタートさせました。「まず八反草を栽培してくれる農家を探すのが大変でした」と今田さん。最初の酒になるまでに6年~7年かかりましたが、原動力になったのは広島らしい酒を造りたいという思い。八反草で醸された日本酒は「柔らかで温かみのある味わいと驚くほどスッキリとしたキレが特長」。お米本来の純朴なうま味が味わえるとして、着実に新たなファンを増やしています。
広島の牡蠣と合う日本酒
「海風土(シーフード)」
東京の取引先から「牡蠣に合う日本酒を造ってほしい」という要望を受けて開発された「海風土(シーフード)」。まず様々なお酒で牡蠣に合う味を調べて数値化し、そのイメージモデルに近づけるという普段とは逆の方法で理想の味を目指したそうです。牡蠣に合うのはレモンのような爽快な酸味と考えた今田さん。酸味を出すために使ったのが、焼酎に用いられる「白麹」でした。「白麹を使うことでクエン酸を多く含み、キリリとしたシャープな日本酒になります」。こうして誕生した「海風土」ですが、今田さん曰く「実はまだ完成していません」。アルコール度数を15度から13度に下げるなど、毎年改良を加えているそうで、まさに「百試千改」の精神が表れています。
「百試千改」新しい挑戦へ。
精米機メーカーサタケとコラボも
米の外側に含まれ、雑味のもととなる「タンパク質」を削り取るため、通常は半分程度になるまで精米をします。そんな中、地元精米機メーカーのサタケが、タンパク質を効率よく削り取れる新型精米機を開発。2018年にその講演を聞いた今田さんは、その場でサタケに声をかけたそうです。新型精米機では、葉っぱのように平たい形に仕上げる「扁平精米」、元のお米と同じ形に仕上げる「原形精米」が可能に。雑味が少ない分、圧倒的にキレの良い飲み口になりました。ラベルは広島出身で、現在大活躍中の吉田昌平さんによるデザイン。「オール広島にこだわった」という新たな精米の名前を冠した「HENPEI」、「GENKEI」は、これからの時代の日本酒の先駆けとなりそうです。
杜氏の町の風土を醸し出す酒を目指したい
「百試千改」の言葉通り、次々と新しいことに挑む今田酒造ですが、理想とする酒造りは今も昔も変わりません。「今田酒造のお酒はやわらかくて繊細。“小味のある酒”です」。瀬戸内の魚介類のように、慈味あふれる風味豊かなやさしい味わい。目指すのは、温暖な気候で瀬戸内の美しい海と山々に囲まれた、杜氏のふるさとの安芸津だからこそ醸すことができる酒造りです。八反草のように品種改良をされていない自然本来の素材に回帰することもその1つ。風光明媚な瀬戸内の町で、理想の味を探究し続ける今田酒造。これからも革新の中に伝統と風土を醸す日本酒を届けてくれるはずです。
今田酒造本店
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広島県東広島市安芸津町三津3734
0846-45-0003
営業時間/9:00~17:00
定休日/土曜・日曜・祝日
URL/ https://fukucho.jp/
※新型コロナウイルス感染予防対策を徹底し、お客様が安心して来店できる環境を整えています。
TEXT BY TJ Hiroshima-タウン情報ひろしま