せとうちグランピングとは・・・・・JR西日本では、新型コロナウイルス感染拡大後における社会情勢の変化をふまえ、「自然」「貸切」をテーマにした新たな観光スタイルの1つである「グランピング事業」の実証実験として、児島・鷲羽山エリアに位置する、鷲羽山下電ホテルの敷地内において「SETOUCHI GLAMPING(せとうちグランピング)」を実施しました。
大阪・神戸から1時間半ほどで
自然と食の魅力あふれる児島へ
―お二人とも地元児島のご出身ですが、お二人が知る児島の魅力を教えてください。
岸さん:まず何といっても海ですね。澄んだ碧(みどり)というイメージで、子どものころ見た海を大人になって見ても、やはり違うなと感じます。
永山さん:児島は「三白」と呼ばれる塩(塩業)・綿(繊維業)・イカナゴ(漁業)で栄えたまちです。日本初の国立公園に指定された瀬戸内海国立公園の特別地域にあり、大阪・神戸からでも新幹線を利用すれば約1時間半でこの大自然に出会えます。そんな産業と自然が共存した利便性のあるエリアなんです。景色でいえば、陸からだけでなく海からもぜひ一度ご覧になることをおすすめします。グランピングでも無人島での夕日体験や瀬戸大橋の下をくぐるクルーズがありましたが、そこで出会う風景はまた格別ですよ。
岸さん:私も小さいころ父の漁船で無人島に釣りやキャンプに行きましたが、そういう地元遊びが外に発信できた意味では、グランピングはとても意義深かったですね。季節でいえば夏だけでなく、ピンと張りつめた透明度の高い海が見られる冬も私は好きです。さらにタコをはじめ新鮮な魚介類も魅力で、個人的にはタコの吸盤を揚げた唐揚げをおすすめします。また、かつて北前船の水の補給地だったこの辺りにはきれいな真水が上がります。その良質の水で造ったお酒も最高です。
永山さん:岡山に日本酒のイメージはないかもしれませんが、今で言うOEM(受託生産)を盛んにやっていたところで、それだけ一級品なんです。
岸さん:野菜もいいですよね。グランピングでもご提供した黄ニラは、風味が良くて食感も柔らかい。このように海の幸、山の幸が実に豊富です。
永山さん:天候や気候に恵まれていればこそですね。
昔から親しまれてきたリゾートビーチで
唯一の老舗旅館
―鷲羽山下電ホテルは創業約90年の老舗ですが、この地に開業した理由は?
永山さん:かつて地元の重要な交通手段だった下津井電鉄の沿線開発の一環として開業されました。これだけ良い場所なので旅館はいくつもありましたが、やがてこの浜全体を当社(下電ホテル)が受け持つことになったのです。
岸さん:当時は年間20万人が訪れていたというデータも残っています。昭和初期は倉敷よりこちらの方が一大観光地だったわけですね。戦後になって本格的にリゾート地としての開発が始まりました。私は全国のホテルでコンサルティング業務に携わってきましたが、これだけ間近に海が見られ、自然環境に恵まれたところはまれで、先人の方たちの先見の明というかビジネス的な嗅覚を感じます。
波の音、風、日差し…
非日常の世界を五感で楽しむ時間
―JR西日本と連携したせとうちグランピングの話が来たとき、どう思われましたか。
岸さん:「よっしゃ!」という感じでした。海も食も素晴らしいという自負はあっても、注目していただくノウハウがなかったので、グランピングというフックを作ってくださったのは、児島を発信する良い機会になったと思います。楽しんで実証実験に取り組ませていただいたというのが本心です。
永山さん:自分たちでは良いところだとわかっていても、それを外部の方に認めてもらうことで「間違ってなかったんだ」といううれしさがありました。逆に地元にいると見えていないものもありますからね。
岸さん:実際、来られたお客さまの「わーっ」という歓声を聞くと、良いところで仕事をしているんだなと自負が確信に変わりました。朝食を外でとるなど新たな楽しみ方を通して私たちも多くの気づきがありました。「もっと海に近づいていいですか」と、足を海に浸けながら食事をされる方もいて、そういう感覚はとても新鮮でしたよ。
海を見ながら楽しむことができた「せとうちグランピング」の朝食
海を見ながら楽しむことができた「せとうちグランピング」の朝食
永山さん:このエリアのさらなるポテンシャルを感じました。
岸さん:コロナ禍でしばらくお出かけも難しい状況がありましたから、グランピングでは非日常の世界を五感で楽しむ時間を満喫いただけたことと思います。通常のホテル業務と違って難しかったのは、お客さまとの距離感でしょうか。「見ていないようで見ている」状態を保つことを、スタッフ全員で共有するのには少し時間がかかりました。
永山さん:どうしてもやり過ぎてしまいますから。
岸さん:お食事を例にとっても、スタートだけお手伝いすれば後はワイワイと盛り上がっていく、自然に楽しくなっていくものですよね。
―食事は料理研究家・大原千鶴さん監修によるものでしたね。
岸さん:はい、これにも多くの発見がありました。私たちにしてみれば普通に食べていたものが、よその方には新鮮に食べてもらえるんだと。
永山さん:岡山の名物として取り入れていただいた「ちらし寿司」もそうですね。これはそもそもお殿様による倹約文化から生まれたもので、開けるとただのご飯で、中から具がたくさん出てくるという趣向が本来です。
今後もエリアの優位性を生かして
地域のにぎわい創出の一翼を担う
岸さん:グランピングでは京阪神のお客さまにも多くお越しいただきましたが、「空気のおいしさが全然違う」ということもよくおっしゃっていました。
永山さん:およそ1時間半後にはもうそこに泳げる海が広がっているわけですから、そういう場所であることを再認識していただけたことは大変良かったです。また「この場所を楽しみたい」という目的から派生して、ブライダルなどのニーズも途中から出てきました。コロナ禍にあってもこの空間なら自分たちの思いを伝えられるんじゃないか、ということで。コロナはまさに大きなターニングポイントでしたが、我々がどう変わればいいか、グランピングが今後のヒントを与えてくれたように思います。この地域の優位性を生かした新しい提案を考える良い機会になりました。
岸さん:私はグランピングが、かつてのにぎわいを取り戻す起爆剤として児島エリアの人口を増やすきっかけにもなるのではないかと考えています。
永山さん:最近は県外でも以前より児島という名前をよく聞くようになったと思います。名刺交換をすると「あっちの方でグランピングをやっていましたね。あ、お宅でしたか」と。児島の名が広く知られるようになるのは、とてもうれしいことです。これからもグランピングをはじめ、児島の魅力を生かした新しいことにチャレンジし続け、地域を盛り上げていきたいと考えています。
せとうちグランピングは、2021年夏、同施設にて再オープンが決定!
(4/28にプレオープン予定)
永山 久徳(ながやま ひさのり)さん
岸 伸良(きし のぶよし)さん
本対談は2021年3月1日に行われたものです。