海の自然と人々の温かさに触れ、東京から移住を決心
―御手洗に移住を決めたきっかけを教えてください。
宮川氏:自然が豊かな土地、海か山がある地域に住みたいという夫婦共通の思いがあり、東京の「ふるさと回帰センター」を訪問しました。そこで紹介されたのが大崎下島。一度下見に行こうということになり、実際に訪れてみたら、海がすぐ近くにある環境や人々のフレンドリーさに心が動きました。ミカンもすごくおいしかった。奥さんが「地域おこし協力隊」に応募して採用が決まったこともあり、下見から4~5か月後には引っ越してきました。
―御手洗でどんな仕事をされていますか?
宮川氏:移住後、自宅とは別の建物(旧郵便局)をリノベーションして、「トムの写真館」を開業しました。現在は、館内に設けたカフェスペースを週末だけオープンして、イギリスのスコーンと紅茶でもてなす「The Tea Cosy」として運営しています。もちろん、家族写真などの依頼があれば応じます。いろんな横のつながりで撮影や執筆、翻訳などを頼まれることも多いです。
御手洗デザイン工房に所属し、若手住民とともに活動
―御手洗の町おこしにはどのように関わっていますか?
宮川氏:御手洗は1994年に「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されたのですが、その時、御手洗の景観を守り歴史を伝えていこうという任意団体「重伝建を考える会」が発足しました。そこに所属する若手住民9人が集まり、より柔軟に動ける実行部隊として2017年に立ち上げたのが「御手洗デザイン工房」です。私も始動時からのメンバーで、御手洗のPRや活性化につながる事業を手伝っています。
―どんなプロジェクトを手がけられましたか?
宮川氏:御手洗デザイン工房のみんなで、昨年「御手洗音声ガイド」を作りました。御手洗には貴重な建造物や魅力的なスポットが点在しますが、その歴史や文化を説明できるガイド不足が課題だったんです。それに、新型コロナウイルスの影響で、なるべく人と接触しない観光のあり方も求められていました。そこで考案したのが、ガラケーのような専用機械を観光客にレンタルして、音声を聞きながら街を散策してもらう新スタイル。今は日本語だけに対応していますが、海外バージョンを作る時は、私が翻訳作業を担当する予定です。
―その他の活動実績もありますか?
宮川氏:御手洗には3つの神社がありますが、観光客にも参拝してもらえるように、各神社の歴史や言い伝えをモチーフにしたオリジナルの絵馬を作って販売しています。他にも、御手洗のお墓になかなか参れないという人に代わって、管理や整備を行う「御手洗墓守代行」もグループのメンバーである矢野さんが手がけています。この地の先祖の供養とともに、御手洗の景観を守っていくことにもつながる活動です。
地域に溶け込んで暮らしながら、移住者支援の新しい取り組みも
―御手洗にすっかりなじみ、地域の方との交流も盛んな印象です。
宮川氏:当初からみんなが「Welcome!」という感じで迎えてくれて、人とのつながりは、東京にいた頃よりも強くなりました。奥さんが活動する「地域おこし協力隊」の影響も大きいですね。代表的なものが、特産品加工団体「サンフルーツOkiToMo」の上神アツカさんとの出会いです。アツカさんは、地元の柑橘類でジャム作りなどを手がけてきた方ですが、腕を見込んだ協力隊がマーマレードの新商品開発をお願いしたんです。その商品が、本場イギリスのマーマレードの大会で見事にブロンズ賞を受賞。もちろん今も商品作りに精を出され、後継者の育成にも励まれています。私の家族ともすごく親しくしてもらって、子どもは本当のおばあちゃんみたいに懐いていますよ。
―トムさんのような移住者を増やすための、ローカルSDGs的な取り組みはありますか?
宮川氏:御手洗がある大崎下島をはじめとした、とびしま海道の島々への移住希望者と地域をマッチングする相談窓口「とびしまライフ」を2020年にとびしま海道に住んでいる移住者仲間10名と一緒に立ち上げました。私たちは移住を考えている人の不安や悩みが分かる立場ですし、それぞれの方に合った地域を紹介することもできます。とびしまライフを窓口に新たに越してきた人もいますし、何より隣り合う島々に暮らしながら、これまであまり接点がなかった移住者同士の連携が強くなったことが嬉しいです。こうした取り組みが、島の人口減少や少子化といった課題解決につながっていくことを願っています。
陸と海の両方からアクセスできる御手洗を拠点に、新しい旅を
―コロナ禍で全国的に観光産業がダメージを受けていますが、御手洗の現状は?
宮川氏:御手洗の観光客に関しては、新型コロナウイルスの影響はそこまで感じていません。むしろ都会よりも田舎、空気が良いところを求める人のニーズに合っているのか、徐々に来島者が増えている印象です。とびしま海道やしまなみ海道、主要な港をつなぐ船を上手に使えば意外にアクセスが良いので、御手洗を拠点にした観光プランはもっと広がるのではないでしょうか。船を気軽に利用できる点は、瀬戸内エリアならではの強みだと思いますね。私自身、こちらに引っ越してきて、船から呉市の軍港を眺めた時はすごく感動しました。海外にも軍港はありますが、海側から眺められるスポットは滅多にないですよ。
―コロナ収束後には、外国人観光客が戻ってくると思います。外国の方に伝えたい御手洗の旅の楽しみ方を教えてください。
宮川氏:広島の旅行というと、宮島や原爆ドームなどを回るゴールデンルートを思い浮かべる人が多いはずです。でも、広島の観光スポットはそれだけじゃありません。もう少し深く地域を知る場所として、特別な歴史や柑橘の文化を持ち、それらが今の暮らしに残っている御手洗はぴったりだと思います。江戸時代の日本は海上交通が要で、そこから文化が発展してきましたが、北前船の往来で賑わった御手洗を訪れれば、当時を知るヒントがたくさんありますよ。電車やクルマの旅も楽しいですが、瀬戸内海の景色を満喫できる「シースピカ」などを利用して、海からも御手洗を訪問してもらいたい。一味違う旅のおもしろさに出会えると思います。
松浦 光司(まつうら みつし)さん
井上 明(いのうえ あきら)さん
上神 アツカ(うえがみ あつか)さん
宮川さん撮りおろし
シースピカから眺める多島美と御手洗のおすすめスポット
せとうち観光型高速クルーザー「シースピカ」から宮川トムさんが撮影した瀬戸内の風景、海から眺める御手洗の町並みとともに、散策で訪れたいおすすめスポットを紹介します。
ART GALLERY
御手洗には古民家などを活かしたギャラリーがたくさんあります。
日本博の「みたらいアートウォーク」の会場にもなっています。
宮川さんと巡った御手洗の観光スポットたち
宮川さんに御手洗のおすすめグルメを伺いました!
トム 宮川 コールトン(とむ みやかわ こーるとん)さん