せとうちパレット

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2021.11.04

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フォトライター トム・宮川コールトンさんに聞く、大崎下島・御手洗(みたらい)の魅力とこれからのまちづくり

江戸時代、潮待ち・風待ちの港町として栄えた大崎下島・御手洗(みたらい)。風情ある町並みは「重要伝統的建造物群保存地区」に定められ、今秋、日本博の一環として実施する「響きあう、人・海・芸術~せとうち交響」の「せとうち音回廊」の開催地にも選ばれています。また、2020年夏からせとうち観光型高速クルーザー「シースピカ」が寄港するようになり、アクセスがいっそう便利に。そんな御手洗に移住し、精力的に町おこし事業に携わっているのが、日本とイギリスのハーフである写真家&ライターのトム・宮川コールトンさん。日本を内と外から知る宮川さんに、御手洗歩きのナビゲートと、シースピカからの風景の撮りおろしをお願いし、このエリアの魅力やご自身の活動について話していただきました。

トム・宮川コールトン写真家&ライター
ギャラリー&カフェ
The Tea Cosy経営

海の自然と人々の温かさに触れ、東京から移住を決心

―御手洗に移住を決めたきっかけを教えてください。

宮川氏:自然が豊かな土地、海か山がある地域に住みたいという夫婦共通の思いがあり、東京の「ふるさと回帰センター」を訪問しました。そこで紹介されたのが大崎下島。一度下見に行こうということになり、実際に訪れてみたら、海がすぐ近くにある環境や人々のフレンドリーさに心が動きました。ミカンもすごくおいしかった。奥さんが「地域おこし協力隊」に応募して採用が決まったこともあり、下見から4~5か月後には引っ越してきました。

―御手洗でどんな仕事をされていますか?

宮川氏:移住後、自宅とは別の建物(旧郵便局)をリノベーションして、「トムの写真館」を開業しました。現在は、館内に設けたカフェスペースを週末だけオープンして、イギリスのスコーンと紅茶でもてなす「The Tea Cosy」として運営しています。もちろん、家族写真などの依頼があれば応じます。いろんな横のつながりで撮影や執筆、翻訳などを頼まれることも多いです。

宮川さんが運営している「The Tea Cosy」前にて

御手洗デザイン工房に所属し、若手住民とともに活動

―御手洗の町おこしにはどのように関わっていますか?

宮川氏:御手洗は1994年に「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されたのですが、その時、御手洗の景観を守り歴史を伝えていこうという任意団体「重伝建を考える会」が発足しました。そこに所属する若手住民9人が集まり、より柔軟に動ける実行部隊として2017年に立ち上げたのが「御手洗デザイン工房」です。私も始動時からのメンバーで、御手洗のPRや活性化につながる事業を手伝っています。

―どんなプロジェクトを手がけられましたか?

宮川氏:御手洗デザイン工房のみんなで、昨年「御手洗音声ガイド」を作りました。御手洗には貴重な建造物や魅力的なスポットが点在しますが、その歴史や文化を説明できるガイド不足が課題だったんです。それに、新型コロナウイルスの影響で、なるべく人と接触しない観光のあり方も求められていました。そこで考案したのが、ガラケーのような専用機械を観光客にレンタルして、音声を聞きながら街を散策してもらう新スタイル。今は日本語だけに対応していますが、海外バージョンを作る時は、私が翻訳作業を担当する予定です。

御手洗デザイン工房のメンバー:新光時計店の松浦光司さん(右)。「この街で生まれ、この町で育ったせいか、地元の良さには意外と気づかないしPRの難しさも感じています。そこをトムに担ってもらいたい。新しい視点で御手洗の良さを発信してほしいです」

―その他の活動実績もありますか?

宮川氏:御手洗には3つの神社がありますが、観光客にも参拝してもらえるように、各神社の歴史や言い伝えをモチーフにしたオリジナルの絵馬を作って販売しています。他にも、御手洗のお墓になかなか参れないという人に代わって、管理や整備を行う「御手洗墓守代行」もグループのメンバーである矢野さんが手がけています。この地の先祖の供養とともに、御手洗の景観を守っていくことにもつながる活動です。

御手洗デザイン工房のメンバー:船宿カフェ若長の井上明さん(左)。「広島県と連携した移住促進がスタートして、一番乗りで御手洗に越してきたのがトム。明るい人柄であっという間に仲間になりました。祭りで太鼓を叩いたり消防団に入ったりと、活動の柔軟性にいつも驚かされています」

地域に溶け込んで暮らしながら、移住者支援の新しい取り組みも

―御手洗にすっかりなじみ、地域の方との交流も盛んな印象です。

宮川氏:当初からみんなが「Welcome!」という感じで迎えてくれて、人とのつながりは、東京にいた頃よりも強くなりました。奥さんが活動する「地域おこし協力隊」の影響も大きいですね。代表的なものが、特産品加工団体「サンフルーツOkiToMo」の上神アツカさんとの出会いです。アツカさんは、地元の柑橘類でジャム作りなどを手がけてきた方ですが、腕を見込んだ協力隊がマーマレードの新商品開発をお願いしたんです。その商品が、本場イギリスのマーマレードの大会で見事にブロンズ賞を受賞。もちろん今も商品作りに精を出され、後継者の育成にも励まれています。私の家族ともすごく親しくしてもらって、子どもは本当のおばあちゃんみたいに懐いていますよ。

サンフルーツOkiToMoの上神アツカさん(左)。「トムさんの奥さんの助けがあって、マーマレードが賞をいただきました。トムさん家族の新しいことに目を向けるセンス、行動する力にはびっくり。親戚みたいに付き合ってくれることにも感謝です」

―トムさんのような移住者を増やすための、ローカルSDGs的な取り組みはありますか?

宮川氏:御手洗がある大崎下島をはじめとした、とびしま海道の島々への移住希望者と地域をマッチングする相談窓口「とびしまライフ」を2020年にとびしま海道に住んでいる移住者仲間10名と一緒に立ち上げました。私たちは移住を考えている人の不安や悩みが分かる立場ですし、それぞれの方に合った地域を紹介することもできます。とびしまライフを窓口に新たに越してきた人もいますし、何より隣り合う島々に暮らしながら、これまであまり接点がなかった移住者同士の連携が強くなったことが嬉しいです。こうした取り組みが、島の人口減少や少子化といった課題解決につながっていくことを願っています。

陸と海の両方からアクセスできる御手洗を拠点に、新しい旅を

―コロナ禍で全国的に観光産業がダメージを受けていますが、御手洗の現状は?

宮川氏:御手洗の観光客に関しては、新型コロナウイルスの影響はそこまで感じていません。むしろ都会よりも田舎、空気が良いところを求める人のニーズに合っているのか、徐々に来島者が増えている印象です。とびしま海道やしまなみ海道、主要な港をつなぐ船を上手に使えば意外にアクセスが良いので、御手洗を拠点にした観光プランはもっと広がるのではないでしょうか。船を気軽に利用できる点は、瀬戸内エリアならではの強みだと思いますね。私自身、こちらに引っ越してきて、船から呉市の軍港を眺めた時はすごく感動しました。海外にも軍港はありますが、海側から眺められるスポットは滅多にないですよ。

―コロナ収束後には、外国人観光客が戻ってくると思います。外国の方に伝えたい御手洗の旅の楽しみ方を教えてください。

宮川氏:広島の旅行というと、宮島や原爆ドームなどを回るゴールデンルートを思い浮かべる人が多いはずです。でも、広島の観光スポットはそれだけじゃありません。もう少し深く地域を知る場所として、特別な歴史や柑橘の文化を持ち、それらが今の暮らしに残っている御手洗はぴったりだと思います。江戸時代の日本は海上交通が要で、そこから文化が発展してきましたが、北前船の往来で賑わった御手洗を訪れれば、当時を知るヒントがたくさんありますよ。電車やクルマの旅も楽しいですが、瀬戸内海の景色を満喫できる「シースピカ」などを利用して、海からも御手洗を訪問してもらいたい。一味違う旅のおもしろさに出会えると思います。

宮川さんご家族

松浦 光司(まつうら みつし)さん

御手洗で生まれ15歳まで過ごす。広島市内の高校から大阪の大学に進み、広島県内の自動車部品メーカーに就職し、設計・開発に携わる。2012年地元に戻り、150年以上の歴史がある実家の新光時計店に未来の5代目として就業。時計の販売・修理のかたわら、御手洗デザイン工房のメンバーとして、御手洗の行事や出来事をまとめた住民のための新聞「御手洗新聞」を担当するなど、街の活性化に力を入れている。父・敬一さんはNHK「プロフェッショナル仕事の流儀」で紹介された、全国的に知られる時計の名医。

井上 明(いのうえ あきら)さん

広島市生まれ。大学卒業後、九州で会社員生活を送る。30歳を前に奥様の実家がある呉市中心部に戻り、観光ボランティア養成講座で御手洗を訪問。風景の中に歴史や文化が残る「街の空気感」に魅力を感じ、2011年に江戸時代の船宿をリノベーションした「船宿カフェ若長」をオープン。以降、空き家を活用した土産物店、鍋焼きうどん店、1日1組限定宿、ゲストハウスなどを続々とプロデュース。シニア向けパソコン教室などの事業も展開している。合同会社よーそろ代表執行役員。

上神 アツカ(うえがみ あつか)さん

大崎下島久比地区で生まれ、結婚で沖友地区へ。子どものために自家栽培の柑橘でジャム作りをしていた経験を生かし、仲間と特産品加工団体「サンフルーツOkiToMo」を設立。2000年から本格的にジャムやマーマレードの製造・販売を始める。2017年には2000点以上のエントリーがあった「英国マーマレードアワード」で、「Atsuka's Marmalade」が銅賞を受賞。同品はThe Tea Cosyをはじめ島内の土産物店、アバンセekie広島駅店などで購入できる。

宮川さん撮りおろし
シースピカから眺める多島美と御手洗のおすすめスポット

せとうち観光型高速クルーザー「シースピカ」から宮川トムさんが撮影した瀬戸内の風景、海から眺める御手洗の町並みとともに、散策で訪れたいおすすめスポットを紹介します。

SEA SPICA(シー スピカ)についてくわしくはこちら

ART GALLERY

御手洗には古民家などを活かしたギャラリーがたくさんあります。
日本博の「みたらいアートウォーク」の会場にもなっています。

宮川さんと巡った御手洗の観光スポットたち

【旧金子家住宅】 飛び石が敷かれた風情ある庭や、庭との一体感が感じられる茶室がすてきです。江戸時代後期に建てられたもので、修繕時にも壁や天井は当時のまま残したと聞きます。日本博ではお茶会の会場になるそうです。

【若胡子(わかえびす)屋跡】 お茶屋(遊郭)だった建物で、今は公民館として使われています。祭りの前は仲間とここに集合して、太鼓の練習をします。御手洗の遊女は地域の花見や祭りに呼ばれたり、亡くなった後もお墓を建ててもらったりと、とても大切にされていたようです。

【乙女座】 昭和の初めに建てられた劇場で、戦後は映画館としてにぎわったそうです。畳敷きの劇場というのは珍しいですね。レンタルできるので、私もトークイベントなどで使ったことがあります。日本博ではギターコンサートが開催されるそうです。

宮川さんに御手洗のおすすめグルメを伺いました!

Seafront Dining 新豊[海鮮料理]
江戸時代末期の建物を改装したシックな空間で安芸灘で獲れる新鮮な魚料理を提供。2階は1組限定の貸切宿となっている。
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みはらし食堂[ラーメン]
親子三代にわたり食堂と旅館を営む。地元の方々にも愛される、自慢の料理は、ボリューム満点。

船宿カフェ若長[檸檬ぜんざい]
前述の井上さんが経営するカフェ。江戸時代の建物から望む多島美を窓いっぱいにゆったりとした時間が流れる。
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GUEST HOUSE 醫(くすし)[かき氷〔夏季限定〕]
元「レントゲン科越智醫院」を改装してつくられたゲストハウス併設のBARにて提供。地元の果物を使った特製のシロップのかき氷。
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The Tea Cosy[スコーン]
宮川さん経営のイングリッシュティーハウス。手作りのスコーンにインドから直輸入の紅茶も。また、どこでもアフタヌーンティーを楽しめるようにと、ネット販売も行なっています。
<詳しくはこちら>

トム 宮川 コールトン(とむ みやかわ こーるとん)さん

1981年イギリス人の父親と日本人の母親のもと東京に生まれる。6歳まで日本で過ごし渡英。大学卒業後、会社勤務を経て興味があったドキュメンタリー写真の道に進む。2009年東京に居を移し、2015年には奥様の真伊さんと御手洗に移住。郵便局を改修した「トムの写真館(現:The Tea Cosy)」をオープン。撮影+ライターの仕事と並行して、夫婦で地域活性の多様な活動に取り組む。海外顧客向けのコンテンツ制作会社アイランド・ピクチャーズ共同代表。著書にアメリカ各地の農家を取材し、撮影・執筆を手がけた『オーガニック・アメリカンズ』。

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※写真はすべてイメージです。

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